失語症記念館
南イタリアの旅

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10.カーネ

2002年 4月:

 スパゲッティーとピッザとワインでエネルギー補充が終了した私達は又散策へと歩 き出す。空気は乾燥していると言うより埃っぽい気がする。石畳が多いせいかもしれ ない。ヨーロッパ、特にラテン系の町は広場を中心に町並みが広がっているので、ど こかへ行く場合はそこに近い広場が目印になる。イタリアでは広場のことをピアッツァ と呼ぶ。しかし昔は大きな広場で市場などが立ち賑わったところでも今は、近くのア パートの住人の路上駐車の場所になっていたりして、慣れない者にとってはどこが広 場なのか皆目見当のつかないところも少なくない。

 地図を見ながら、通りの名前をきょろきょろ確認しながら、そして足元

野良犬

野良犬
も注意しな がら・・・結構大変なのである。足元の注意がなぜ必要かというと前にも書いたとお り、大きなうんちがそこここに落ちているのである。なぜにこんなに大きなうんちが 落ちているのか。

 カーネというのはイタリア語で犬のことである。南イタリア人は野良犬に寛大であ る。しかも羊くらいの大型の黒色短毛の野良犬がうろついている。ブラックラブラドー ルをもう少し大きくした感じ。人間が気にとめないこともあってか、犬たちも鷹揚で、 のんびりしている。この旅で随分沢山の野良犬を見たが、彼らが吠えているところを 一度も見なかった。そしてだいたいにして、犬たちは皆太っている。下町を歩いてい ると、アパートや店のドアの横のところにたぶん野良犬用と思える餌を入れるお皿な どが無造作に置いてあってほほえましかった。きっと夕飯の残り物などを入れておく のだろう。時には普通のドックフードも入っていた入れ物も見かけた。

 一度、繁華街を歩いていたときに沢山の通行人の通る歩道に1頭のやっぱり黒い毛 の羊くらいの大きな犬が横たわっていた。ぴくりとも動かない。
「どうしたんだろう。死んでいるのかな?」
シェスタで閉まっているお店のシャッターを背に少しも動かず横たわっている犬はな ぜか悲しさを醸し出す。体が大きい分、存在感も大きい。
 あまりに大きすぎて、つつく気にもなれずしばしの間足を止めた。その間も本当に 沢山の人がその犬のすぐ横を通り過ぎていく。犬は相変わらず動かない。
「ありゃぁ、こりゃ死んでいるのかねぇ。」
犬好きらしいお婆さんが立ち止まった。
「ちょっとこりゃぁ、どうしたんだろう?死んでるのかい?誰か見てあげなよ。」
たぶんこういう意味のことを大きな声でまくし立てたのだと思う。それにしてもイタ リア人はジェスチャーが大きく、又けたたましく、まくし立てる。
 近くを通った幾人かの若者達が足を止めた。お婆さんの言葉にみんなが犬を覗き込 んだ。どさくさに紛れてまゆみも加わる。
 勇気ある1人がちょっとつついた。やはり動かない。イタリア人たちが又議論する。 今度は何を言ってるのか早口で聞き取れない。

 突然、その犬が目を開けたかと思うと、ひどく気だるそうに立ち上がり、
『うるさいったらありゃしない。・・・いい加減にしてくれよぅ!』てな感じでのっ そりのっそりとどこかへ消えてしまった。その犬の気持ちは別にして、みんな『やれ やれ、良かった、良かった』という笑顔をこぼれさせている。こう言うのを大きなお 世話というのかもしれないが、まゆみもなんだか嬉しくなって
「いやぁ、よかったよかった。これにて一件落着!」
「可愛そうに、気持ちよく昼寝してたのに、寄ってたかってみんなにたたき起こされ て!」これは夫の弁。まあ、ありがた迷惑というのかもしれないが・・・。でも、自 分以外の誰かを心配してくれる、そういう人情的なところのある南イタリア人。その 対象が犬でもである。なんだかあったかい。

 ところでラテン系はスピード狂が多い。車の運転はひどく乱暴である。でも野良達 は轢かれたりしない。なぜか?道路を横断するときに彼らは絶対走らない。もしくは 誰か渡る人間を見つけて一緒に渡ると言う知恵を持っている。タイに行った時に、ガ イドに、「横断するときには絶対に走ってはいけない。ゆっくり渡れ。歩行者を見る と車は歩行者が渡る前に通過しようとしてスピードを上げるから。」あの時私も横断 しようとする現地人を見つけて影武者のようにぴったりとくっついて道路を渡った。 本当に怖かった。南イタリアの野良達もその知恵を身につけているのだ。恐るべし、 イタリアン・カーネ!
 だから、南イタリアの町は大きなうんちがたくさん転がっているというわけ。
南イタリアは、引ったくりにも注意が必要だが、うんちを踏まないで歩く注意も必要 だ。

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素敵な人々へ
南イタリアの旅へ

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最終更新日: 2010/08/29